#035 「居住性」について

2017.09.06

今ではほぼ淘汰されてしまいましたが、かつて住宅が竣工すると建築家はクライアントに引き渡す前の1週間程をその住宅で過ごしたのだそうです。 それは自身の設計した住宅の居住性を身をもって体験し、設計意図の成功・不成功を肌で感じ、以降の設計に生かすためでした。 慌ただしい現代ではそれが許される事例は希でしょう。

今春竣工した 「柏市消防団 戸張器具置場」 も工事完成が工期ぎりぎりでしたが、その直後、消防局から撮影許可を頂きました。 写真家の上田 宏さんはお昼頃までにおおよその写真を撮り終え、夕景の撮影まで退出しました。 私は留守番として会議室で一人の午後を過ごしました。 すると、暫くして新たなことに気付きました。 座った時のアイレベルよりも更にアイレベルを下げると、写真のように各段の風景が独立して見えるのです。 上段から順に「空の景」「家並みの景」「畑と道の景」という具合です。 各段の窓の風景が不思議に感じ、とても心地よいのです。 私は設計段階で連窓と細長い壁の反復は外観を強くイメージしましたが、「各段の風景の独立」に気付いたのも午後をずっと一人で過ごしたからでしょう。

「居住性」「居心地の良さ」と言葉にすると素通りしてしまいそうですが、それはとても繊細で感覚的であると改めて腑に落ちたときでした。

言葉にならない「想い」までも
「家」にする

千葉・柏の住宅設計事務所 古里設計
(建築家 古里正)
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