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「建築家」について
-私が阪神淡路大震災を体験したときに住んでいたマンションの、その設計者を通して-

2002.03.04
text & photo by T.Furusato


 私が大規模設計事務所のスタッフだった頃、大阪支社に転勤になった。住まい探しを始めて最初に、この西宮のマンションと出会った。コンクリート打ち放しのフォルムが美しく、一目で気に入ってしまった。住んで2年足らずの時、私は阪神淡路大震災をこのマンションで体験した。この地域でも多くの犠牲者が出た中で、今日、私が生きていられるのはこのマンションのお陰でもある。

 住み始めて暫くした頃、大家さんに会う機会があり、このマンションの設計者を教えてもらって驚いた。それは、日本を代表するスーパーゼネコン「T工務店」の設計部長にしてプリンシパルアーキテクト(組織内スター建築家とでも言ったらいいだろう)、更に吉田五十八賞(とても権威のある建築賞です)受賞のK氏の作品であった。大家さんとK氏は幼馴染とのことだった。以下、大家さんと私の会話。

大家さん:あなたも建築の設計のお仕事だそうだけど、Kさんが「『建築家が現実とつながるのは建築しかない』と信じて設計しないと建築が他者に届かない!」って言ってたわョ。
私:???
大家さん:Kさんが言ってたけど「建築はいい設計をすれば必ず認められる」んですってねぇ〜。
私:T工務店でプリンシパルアーキテクトになるのは宝くじを当てるくらいの確率で、Kさんは超エリートだから、そんな事言えるんだ!エリートでもない者は報われないこと、不条理を押し付けられることがどれだけ多いことか!
大家さん:そうじゃないのョ。Kさん一家は戦後、大陸から引き揚げて来てとても苦労したのョ。それに、Kさんは若くしてお父さんを亡くし、T工務店に入社なさってから妹さんを2人も嫁がせたのョ。第一、神戸の大学に入るのに浪人も経験したんだから、勉強は決して優秀だった訳じゃないのョ。Kさんはエリートなんかじゃないヮ。
私:・・・・・

当時の私もその一人だが、組織(特に大きな組織)に属する者が「組織の不条理さ」「人が人を評価することの困難さ」を全く感じていなかったとは少々信じられない。大家さんが言うようにエリートではないK氏が「建築家が現実とつながるのは建築しかない」と言うのは恐らく、自分自身を鼓舞するためではないだろうか。建築の設計や人格も含め、自分を高めてゆこうとする思いではないだろうか。私はK氏にお会いしたことがないので、ご本人の真意は分からないが、それでも私はそう思っている。



 私が住んでいた部屋の内観。素材やディテールにより天井の低さを感じさせない。

「建築家」について-その後



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